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2014年10月 1日 (水)

一番復活してほしい江戸時代の行事「二十六夜待ち」(その4)高輪・品川の座敷(高楼)からの海と月の眺め

江戸時代、江戸で盛んだった二十六夜待ち。
月待ち行事の一つで、旧暦26日(27日未明)の月の出を拝むものです。
主に旧暦1月26日と7月26日に行なわれていて、
特に7月26日が大盛り上がりだったことは様々な文献や浮世絵などから知ることができます。

この二十六夜待ちで人気のあった場所が高輪、品川。

今では埋め立てが進んで高いビルが立ち並んでいますが、当時は高輪あたりもウオーターフロント。
三田の高台からも海が見えたといいます。

高輪、品川が恵まれていたのは海辺(東京湾沿岸)というだけではなく、開けていた方角が「東」ということ。

水平線から昇る月の出を見ることができたのです。

二十六夜の月は夜更けに東の空から昇り、朝になれば見えづらくなります。

だからこそ、東側が開けた場所で見るのが一番。高輪、品川が絶好のロケーションだったのです。

高輪での二十六夜待ちは浮世絵でも描かれています。

詳細はぜひ、
一番復活してほしい江戸時代の行事「二十六夜待ち」シリーズの
(その1)(その2)(その3)をご覧ください。(下記にリンクあり)

さて今回の(その4)では、「二十六夜待ち」ではないのですが、
高輪、品川の茶屋からの海、月の眺望のわかる絵で特に情緒が感じられる作品をご紹介します。


すぐそばに海があって、窓ガラスがないから、汐風を素肌に感じられて、
汐の香りもして、チャプチャプと波の音も耳をくすぐって~、
とその気持ち良さが伝わりそうな絵の数々です。

≪美南見十二候 九月 いざよう月≫鳥居清長
1784年(天明4年)頃

千葉市美術館、ボストン美術館、シカゴ美術館ほか所蔵

閲覧できるサイト
シカゴ美術館所蔵のものはこちら
作品タイトルは
「The Ninth Month, from the series "Twelve Months in the South"」

20140927toriikiyonaga_south_9_aic


千葉市立美術館のものはこちら

ボストン美術館所蔵のものはこちら
作品タイトルは「The Ninth Month, from the series Twelve Months in the South」。

私メモ/美南見とは江戸の町の南にある品川のことです。
暮れた空。
海に浮かぶ舟は漁火が。
空には少し欠けた月(いざよいは十六夜の月のことですね)が。
そして、くつろぐ遊女たち。

ゆったりとした時の流れを感じさせます。
旧暦9月16日といえば、今の暦の10月上旬から下旬。
夜風は肌寒いくらいで、この女性たちくらい衣を重ねてちょうどいいのでしょう。

≪品川月夜図≫亜欧堂田善(あおうどうでんぜん)
1804~18年(享和4~文化15年)頃

須賀川市立博物館所蔵

閲覧できるサイト
福島県教育委員会による須賀川市立博物館図録「亜欧堂田善作品集」
直接のURLはttp://is2.sss.fukushima-u.ac.jp/fks-db//txt/20011.001/html/00017.html

画像提供:須賀川市立博物館 (クリックで拡大します)
20140927aoudoudenzen
私メモ/この作品を知ったのは、
先日刊行された「日本美術全集 第15巻 江戸の浮世絵」(小学館)に掲載されていたからです。

銅版画なのに柔らかさを感じます。女性の着物がガウンのようにみえることもあるのでしょう。
外国の人が描いた日本女性みたいな雰囲気でどことなくエキゾチック。

欄干の向こうの波打つ水面、そこに伸びる月の光のゆらゆら。
水彩ではなく銅版画の鋭い線だけでこの<ゆらゆら感>が表現されているのが素晴らしいです。
モノクロなのに、色を感じます。水の音が聞こえてきそう。
ドビュッシーの「月の光」の調べも聴こえてきそう。

構成も素晴らしいですね。

垂直なのは建物の柱、水面に映る月の光の道。
水平なのは欄干、建物の鴨居。水平線。

その直線の中央に「女性」と「灯り」を対で配置。
両方とも垂直で上部にふくらみのあるワイングラスのようなフォルム。
そのやわらかさが、直線メインの構成の中で引き立ちます。

きっちりした構成だからこそ、水面と月の光の道の「ゆらぎ」も引き立ちます。

女性がうれしさを胸に秘めて月を眺めているのか、
哀しさをこらえて月を眺めているのかわかりませんが
いずれの心境の時でも、こんな、海に溶け込んでしまうようなロケーションで月の光を浴びたら、
気持ちが穏やかになりそうです。

この空間に自分もはいりこみたい!と強く感じる作品です。

≪江戸名所 高輪の月見≫歌川国輝
1847年(弘化4年)

港区立港郷土資料館所蔵

閲覧できるサイト
港区ゆかりの人物データベース
直接のURLはこちら

私メモ/満月、ピラミッド状に並んだお団子、すすきで中秋の名月をめでていることがわかります。
てすりの奥に水面は見えませんが、立ち並ぶ帆柱で背景が海であることが示されています。

≪東都月の三景 高輪秋の月≫歌川広重
弘化~嘉永頃

国立国会図書館所蔵

閲覧できるサイト
国立国会図書館デジタルコレクション
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1306166/1

↓国立国会図書館デジタルコレクションより
20140927hiroshige_takanawa_aki_no_2
私メモ/高楼というよりもいわば埠頭での観月です。
いかに水際が近いかがわかりますよね。
立膝つくようなポーズでくつろぐ女性の姿も印象的です。

子犬3匹もかわいいです。

昇りたての満月。東側がひらけている高輪のロケーションがよくわかる絵です。

≪江戸名所 四季のながめ 高輪月の景≫歌川広重
1845~51年(弘化4~嘉永4年)頃

港区立港郷土資料館所蔵


閲覧できるサイト
港区ゆかりの人物データベース
直接のURLはこちら

海に面した茶店。てすりにものうげにもたれて、海を見下ろす遊女たち。水平線にはちょうど満月が昇ったところです。

≪江戸名所 品川の月≫歌川広重
1850~52年(嘉永3~5年)

ボストン美術館所蔵

閲覧できるサイト
ボストン美術館所蔵のものはこちら

作品タイトルは「Moon over Shinagawa (Shinagawa no tsuki), from the Series Famous Places in Edo (Edo meisho)」

私メモ/こちらも団扇絵です。満月が浮かぶ雁の群れが見えるので秋の月でしょうか。
立ち並ぶ茶店の2階の桟敷はいわゆるルーフバルコニーのよう。
見下ろせばすぐ海という眺めになるよう建てられている様子がよくわかります。
台風の大波や、安政の大地震(この絵が描かれた数年後)の際の津波、
大丈夫だったのだろうかと心配になるほど、ぎりぎりの水際にたてられていたことがわかります。

≪名所江戸百景 月の岬≫歌川広重
1857年(安政4年)

国立国会図書館ほか所蔵

閲覧できるサイト
国立国会図書館デジタルコレクション
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1312318/1
20140929tsukinomisaki_2
↑国立国会図書館デジタルコレクションより

私メモ/風流ですね~。
広がる畳の座敷のすぐ向こうに海が見えるなんて!
月が海上に見えていますね。

東側がこんなふうに見渡せる場所だから、二十六夜の月が水平線から昇るのも楽しめる絶景の座敷ですね。

こんないい場所でおいしい料理に舌鼓を打ち、ほろ酔い気分になりながら、
二十六夜の月の出を待つのは本当に楽しかっただろうな~とうらやましくなります。


≪品川の月≫喜多川歌麿
1788年(天明8年)頃

フーリア美術館(Freer Gallery of Art)所蔵

閲覧できるサイト
フーリア美術館のものはこちら

作品タイトルは「Moonlight Revelry at Dozo Sagami」。

肉筆画です。海の上に丸い月が浮かんでいます。波頭の描き方がリアル。パノラマ感のある素晴らしい絵です。
とちぎ歌麿館に高精細複製画があります。

※月こそ描かれていませんが、『品川青楼遊興の図 三枚続』歌川豊国(東京国立博物館)も必見。
海に浮かぶ舟を眺めながら遊興を愉しんでいる絵で、この地のロケーションの素晴らしさが伝わってきます。

二十六夜待ちシリーズ その1 その2 その3 その4

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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