グランプリフィイナル中国大会、男子フリー。誰のせいもしない、アクシデントのせいにしない。
フィギュアスケートグランプリシリーズ、中国大会。こんなドラマが起きようとは。
それは男子フリー。
6分間練習での羽生結弦と中国の閻 涵(エンカン)の激突。
リプレイでもものすごいスピードで衝撃が大きかったであろうことがわかります。
羽生は倒れたまま立ちあがることができません。流血も。
LIVE放映なのでテレビはその模様をずっと流しています。
録画中継であれば、ネットで調べてどうなったのかいきさつを知ることができますが、
今起きていることなので固唾をのんで見守るしかありません。
しばらくたって、エンカンの方は棄権することが伝えられましたが、
羽生は頭にテーピング、あごなどにばんそうこうを貼ってリンクに現れました。
試合に出られないためにお詫びの挨拶をするのかなと思ったのですが
なんとそれは、再開された6分間練習を行うため。
顔を時折しかめ、身体も痛そう。それでもジャンプに挑みます。
顔はまっしろ。苦しそうにしながら何かを見据えたような真剣な表情です。
競技再開で他の選手の演技が続いたあと、まさかのエンカン登場。
棄権ではなく。
エンカンの演技。ジャンプが飛べず、衝撃の影響が出ていることがみてとれます。
でも、ジャンプが失敗しても、しょげる様子はありません。
前を向くといいますか、身体も意識も、音楽の次のフレーズ、自分の踏むべき次にステップに集中しているのがわかります。
誰のせいにもしない。怪我のせいにしない。 どんな状態であっても、今自分が出来るすべてを見せる。
そんな覚悟が伝わってくるような気迫に打たれました。
そして小粋な振付が魅力的なプログラム。
ジャンプほどの負担がない部分の動きはとてもよく、プログラムの良さが伝わる演技は見事でした。
終ったあともけっして、悔しさではなく、やるべきことをやったという表情に見えたのもほっとしました。
また、エンカンがリンクに現れる前に羽生と握手を交わしていたのですね。その映像も流れました。
そして次は羽生。
凄まじい気迫でした。
ジャンプの着地が上手くできずに転倒する様子に、いかにダメージが大きいのかがわかります。
足などの体への負担だけではなく、頭を打ったこともフィギュアスケートでは大変なことですよね。
三半規管もやられてしまうかもしれないですし、ジャンプ、スピンでの負荷が気になります。
脳へのダメージは怖いものです。
高校ラグビーでは脳震盪を起こした場合、2~3週間は試合に出られない規定でしたよね。
羽生は転倒後、意識を失った場面はありませんでしたが、頭を打ち、脳内で出血が起きているかわからない状況。
もし頭の中で何かが起きていたら、ジャンプやスピンによる負荷は命に係わる危険なこと。
それでもジャンプに挑み続ける精神力。凄まじいとしかいいようがなく涙がとまりませんでした。
4回転にも挑み、成功させるジャンプも。
今シーズンからショート、フリーでもボーカル入りの曲の使用が認められましたが、フリープログラム「オペラ座の怪人」。
後半で、ボーカルが入ります。その声の抑揚と動きがとても合っていました。
滑り終えたあと場内の拍手、日の丸、投げ込まれるプレゼント。熱気。
とんでもない伝説が今生まれたこと、それをテレビ越しとはいえ、生で目撃したのです。
滑り終えた羽生が場内を見まわし、挨拶をし、リンクサイドに戻る時、よろけて普通に立てません。
いかに大変な体で競技に臨んだのかがわかります。
エンカン同様、誰のせいにもしない。怪我のせいにもしない。
期待してくれている観客の前で滑りたい。
そんな一途な思いが伝わってきました。
キス&クライでの止まらない涙。どんなことを思ったのでしょうか。
羽生選手はごつごつというよりも中性的な顔立ち。
上背はあるもののマッチョというよりはすらり系。だけど中身は超「男」だったのですね。
子供時代に通うリンクの閉鎖危機も経験し、東日本大震災でも自ら被災しています。
多くの選手が「周りの人の支えでスケートを続けられた」と語りますが、
羽生に関しては、リップサービスではなく、本当に周りの人のサポートでリンクが経営され、
自分が滑る環境を整えてもらったことを身に染みて感謝しているのです。
だからこそ、自分が滑ることでつかんだ栄光をまわりに還元しようとするし、
使命を感じてスケートに取り組んでいる様子がみてとれます。
若いけれどアスリートとして、人間として「大人」。
スケートにかける覚悟の凄さをあらためて感じました。
甘いマスク、ひらひらきらびやかな衣装に身を包みながら、中身は超骨太なアスリート。
優雅に見えて、危険を伴う非常に過酷なスポーツ。その2面性を、頭に巻いたテーピングが象徴しているようでした。
他の選手もアクシデントによる中断や場内の異常な空気などで滑りにくかったでしょう。
コフトゥンが優勝でよかったです。
ここで羽生くんが優勝してしまったら、
彼が命をかけてでもつかもうとしている「優勝」の価値を下げてしまうから。
羽生は2位発進となったショートでも次元が違っていました。
ショパンの「バラード第1番ト短調作品23」。
奇をてらうことなく、王道ともいえる曲で王道ともいえるスケーティング。
多くの選手が毎年さまざまなプログラムをみせます。
独創的な動き、スピンの形・・・
フィギュアスケートでこんなこともできるんだと発見する新鮮さに出会えるのも嬉しいです。
が、一方、もう何千回も何万回も多くのスケーターがおこなっている定番のジャンプ、
ポジションの美しさを究めて「差」を出すというのも地味だけどすごい挑戦だと思うのです。
ショートでイーグルのあと最初のジャンプそしてイーグルの流れが本当に美しかったです。
この洗練された美しさに、「究めよう」とする覚悟を感じました。
ジャンプは力を入れなければ飛べないでしょう。
着地だって力を抜くわけにはいかないでしょう。
だからこそ、そのあとすぐにふわーと力みのないイーグルに切り替わるところがすごいと思うのです。
ショパンのこの曲全体が激しく鍵盤を叩くという曲調ではなく、
ふわっとしたやわらかに指を鍵盤に走らせる曲調。
曲調を捉えようとすればするほど、力を入れたり、スピードを出したりするのが難しそうな曲なのに、
ピアノの指のタッチと動きが連動しているかのようで素晴らしかったです。
激突した2人が無理して演技をしたために今後の競技生活に影響が出ることがあったら心配。
棄権か続行か賛否がわかれるところでしょうが、今後への影響がないことを望みます。
「挑戦することが美談」になってしまうのはよくない風潮です。
登山では「引き返すことも勇気」といいますし。
再開の6分間練習で羽生自身が行けると今回は思ったのでしょうし、
ある程度ジャンプも形になってしまったから本番でも挑戦するのはしかたなかったのでしょう。
妥協したくない、グランプリファイナル出場のためにも、と。
でも棄権しないとしても、いっそ、ジャンプはすべて省きスピンの負荷を減らし、
それ以外のところだけで魅せてやる、という選択もあったのではと思います。
点数は出ないし、競技の扱いにはならないのかもしれないけれど。
羽生だったらノージャンプノースピンの4分30秒。
それでも、「オペラ座の怪人」の世界を創り出したことでしょう。
それこそさらに伝説の4分30秒になったのではと思うのです。
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