馬琴と画眉鳥シリーズ(その2)馬琴の『禽鏡』に感動!
画眉鳥について調べていて一番感動したことが、
江戸時代にすでに日本に輸入されていたこと、
そして、曲亭馬琴(滝沢馬琴)も知っていて、
自ら作った鳥図鑑『禽鏡』にも取り上げていることです。
今回は『禽鏡』について詳しくご紹介します。
『禽鏡』
6巻からなる鳥図鑑。
255種類306図の鳥の絵を渥美赫州(娘婿の渥美覚重のこと)に描かせ、
馬琴が「瀧澤解」の名で解説を加えています。
赫州はいろんな書物から鳥の絵を模写しています。
『鳥名由来辞典』の「図譜に描かれた鳥の種名の同定」によると、
馬琴による解説は佐藤成裕の『飼籠鳥』から多く引用されているようです。
天保5年(1834年)に完成。
私が調べた範囲では『禽鏡』は出版されているものはなく、東洋文庫さんに現物があるのみ。
(国立国会図書館にも第一巻、第六巻があります)
さてこの『禽鏡』ですが、東洋文庫さんで拝見させていただきました。
感動です~。
巻物を自分で開いてみるなんて初めて!
複製ではありません。
馬琴が書いた文字がそのまま読めるのです。
渥美赫州による鳥の模写もいわば原画をみることになるので、筆のタッチがリアルです。
馬琴が見たのと同じものを180年後に見られる。
『禽鏡』の絵の素晴らしさ&馬琴の追体験ができることに感動しました!
いくつかの絵をご紹介します。
いずれも東洋文庫所蔵。画像は特別にご紹介させていただきます。
二次利用はご遠慮ください。
画像はクリックで拡大します。
画眉鳥は三巻に登場します。
こちらは三巻の巻頭。
著作堂主人纂輯(さんしゅう・・・編纂の意味)と書かれていますが、
著作堂主人というのは馬琴の号です。
こちらが画眉鳥↓
目元の白いアイラインの特徴がしっかり描かれていますね。
この絵は『不忍禽譜』内の画眉鳥とそっくり。
↑『不忍禽譜』より。国立国会図書館デジタルコレクションより。
『不忍禽譜』を模写したものか、もしくは同じ鳥の絵を『禽鏡』、『不忍禽譜』がともに模写したのかはわかりません。
さて、『禽鏡』の画眉鳥の脇にある解説文を見てみましょう。
画眉鳥 グワビチヨウ
画眉鳥潜確類書云似鸎而小黄黒色
其眉如画巧於作声如百舌
觧云先輩画眉鳥ヲ頬白ナリト云モノアリ非也
ここで「潜確類書」と出てくるのはこちらで紹介した「潜確居類書」のことだと思います。
鸎という文字は文字化けしてしまうかもしれませんが、貝二つの下に鳥を書いた漢字。ウグイスのことです。
「觧」は解のこと。馬琴の本名は滝沢興邦ですが後に、滝沢解(とく)に改名しています。
というわけで、ざっくり訳してみますと。
「潜確居類書」によると画眉鳥はウグイスに似た小さな黄黒色の鳥で、
その眉は描いたみたいである。鳴き声はモズに似ている。
画眉鳥はホオジロのことだという先達もいるが、ホオジロとは別物である。
一巻のホオジロのところでも同じようなことを馬琴は注釈しています。
こちらが『禽鏡』一巻の頬白。
確かにこの絵を見ていると頬白と画眉鳥は違いますね。
『禽鏡』に収録された絵はどれも素晴らしいのですが特に惹かれたのが二巻のミミズク。
目を細めたような表情も毛の描き方の細やかさもたまりません!
どことなくバリ絵画を連想してしまうのは私だけでしょうか。
四巻のシロガラスにも感動しました。
というのは馬琴の日記で鈴木牧之(『北越雪譜』の著者)からシロガラスの絵を受け取ったことが書かれていたのです。
それを模写させたものなのですね。
添えられた解説文は。
白鴉 シロカラス。
天保三年壬辰夏四月上旬越後州魚沼郡塩沢ノ里人
鍵屋治左衛門ト云フ者ノ居宅ノ裏ナル樹ニ鴉巣ヲ締ヒテ雛三隻ヲ生ス。
其中ニカクノ如キ白鴉一隻アリ。主人コレヲ瞻(み)テ人に竊(ぬすま)レンコトヲ
怕(おそ)レテハヤク樊畜シタルヲ同郷ノ長鈴木牧之写生シテ予ニ贈レリ。
初ハ咮(くちばし)と足ト薄紅ナリシニ生長ニ従テ皆白色ニナリシト云。
全図疎画ナレバ赫洲ノ再摹 シタルナリ 觧云。
天保3年4月に新潟の魚沼郡塩沢で鍵屋治左衛門が発見した
白いカラスを鈴木牧之がスケッチして、
馬琴に送り、それを渥美覚重が模写したということなのですね。
曲亭馬琴日記で牧之から白烏のスケッチをもらったくだりは以下になります。
天保3年6月26日 牧之方より、当春、近所に白烏出生のよし、図しておくらる。
天保3年6月27日 覚重よりかり置候衆鳥写真巻物返却、ならび、
右の内写しもらひ度分100余種、書賃わたしおく。
ほかに越後牧之より写し来候白鳥の図も写し呉候様、申談じ、わたしおく。
『曲亭馬琴日記 第三巻』新訂増補 柴田光彦(中央公論新社 2009)p145~146より。
※漢数字をアラビア数字に、旧字を新字にほか、読みやすく私がかえているところがあります。
※渥美赫州は出版物では「州」と表記されているものが多いですが、
『禽鏡』で馬琴は「洲」と書いていますのでこの記事内では両方混在となっています。
『禽鏡』は素晴らしいので、
ぜひぜひ現代語訳付きで出版してほしいです。
手元に1冊ほしいです
(2022.5.15追記)
シロカラスの絵に添えられた文の「募」のような文字が不明と書いておりましたが、
コメントをお寄せくださった藪野直史さまのご教示で判明できました。
「摹」だったのですね。
模写の模などの意味があるようです。
ですので、上記の箇所を書き直しました。
「赫洲ノ再摹 シタルナリ(鈴木牧之がスケッチした絵を赫洲がふたたび模写したものだ)」
という意味になるのですね。
藪野さま、ありがとうございました。
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コメント
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「白鴉」の文末の字は「摹」の「手」の崩しですね。「うつしたるなり」で、「寫したるなり」と同じです。「グリフウィキ」の当該漢字を以下にリンクさせておきます。
https://glyphwiki.org/wiki/u6479
私は現在、馬琴の「兎園小説」の全電子化注を作業中で、先ほど、
『曲亭馬琴「兎園小説別集」下巻 東大寺造立供養記(追記で「瑞稻」と「白烏」が付随する)』
https://onibi.cocolog-nifty.com/alain_leroy_/2022/05/post-1e72f4.html
を公開しましたが、この素晴らしい本ページの「白鴉」の図には感銘しました。リンクさせて頂きました。
投稿: 藪野直史 | 2022年5月14日 (土) 09:47
藪野直史さま。判読できなかった摹についてご教示くださり本当にありがとうございます!
模写するという意味になるのですね!
また、https://onibi.cocolog-nifty.com/alain_leroy_/2022/05/post-1e72f4.htmlも拝見させていただきました。
ご紹介くださりありがとうございます。
藪野さまが感銘されたように、私も巻物のこの絵を拝見した時、このことね!と感動しました。
藪野さまのブログで知った方がリンク先をたどって、感動してくださるとうれしいです。
この記事の本文でも藪野さまにご教示いただいて、文字が判明したことを追記させていただきます(作業は5月15日に)
「兎園小説」というと、なんといってもうつろ舟を思い浮かべますし、全電子化注をされていらっしゃるというのはとてもありがたいことです。
投稿: emi | 2022年5月15日 (日) 00:11