羽生結弦のEX「天と地のレクイエム」は名プログラム。もがく姿も美しい
羽生結弦の今シーズンのEX。どうしてこんなに心を打つのでしょう。
このプログラムに関しては「演技」とか「表現力豊か」という言葉で語るのはふさわしくない気がします。
それは泣いている人に、「君の泣き方は表現力豊かだね」と言わないのと一緒で。
曲は松尾泰伸。「天と地のレクイエム 3・11 東日本大震災 鎮魂曲~」。
胸をしめつけるようにせつなくて美しくて烈しい楽曲。
振付は宮本賢二。
それを、震災で被災した1人である羽生が滑ります。
苦しんでいる人を癒し、励ますためには鼓舞する応援曲はNG。
倒れている人の手を無理にひっぱって立たせるようなもの。
まずはその痛みに寄り添ってそばにいること。
立ち上がるつもりになるまで痛みを分かち合ってあげること。
そんなことを感じさせます。
EX「天と地のレクイエム」。
どんな意図で作曲し、振付師、滑るのか。
それを訊かなくても、言葉がなくても、羽生のこの滑りは、マイムや体の動きですべてを現わしているように思えます。
もがく。怒る。絶望する。下を向く。天を仰ぐ。救いを乞う。また下を向く。翻弄される。拒否する。願う。
楽曲も振付も決してハッピーエンドに終わっているようにはみえません。
でも、もがく苦しさを体現するからこそ、観る者がそこに自分の苦しさを代弁してくれているように感じるのかもしれません。
そして、結果的にこのEXに<癒される><静かに励まされる>。
テーマをもし読み解くとしたら「苦しくても美しくある」ことかなと思います。
プログラムそのものの内容とともに、
羽生がこのプログラムの激しい動きをこなしながらも、最後、平然とリンクで演技を終えることにも
<苦しいけれど美しくある>を感じます。
もがくこともOK。もがいても美しくいられるから。
そんな風に語られている気がしました。
~~~~~
特に好きなところ。
序盤の屈んだままの手を動かす様子は白鳥が羽根を羽ばたかせるよう。
マイヤ・プリセツカヤの「瀕死の白鳥」を思い出しました。
前に滑る、ひざまづくetc. すべての動きが必死にもがいて、
突き進んで挫折して、何度も下を向いて、天を仰いで、前に手を伸ばしては下を向いて、耳をふさいで。
何かを手繰り寄せようとして、頭を抱えて。
その繰り返しに心を揺さぶられます。
何度観ても、スピン直後の「イヤイヤ」といように肩を揺らすところ好き。
このピアノの少し高音の特徴あるフレーズ。何度か繰り返されます
(左右の手を羽根のようにはばたかせる動きとシンクロさせたり)。
ショートでも見せているイーグル、トリプルアクセル、イーグルの流れも美しいです。
ドーナツスピンのあと、二度ぐらい右足で漕ぐようなステップも好き。
ジャンプ以外の場面でも軸がぶれない、無駄な動きがない、ジャンプ前後にも隙のない。
密度の濃い振付をこなせるのは羽生だからこそでしょう。
だとしても、滑り継いでほしいプログラム。
バレエはいろんなダンサーが「白鳥の湖」「海賊」etc.名プログラムを演目とするように、
この「天と地のレクイエム」。いろんなスケーターが滑るところを見てみたいです。
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