伝説に立ち会えたNHK杯
NHK杯、すごかったですね。私が特に印象に残ったベスト10はこちら。
1)羽生結弦のフリー。伝説に立ちあえた瞬間
すごかった~。鳥肌。4回転を3回。しか3つめは4T-2Tではなくて4-3に。
そしてすべてのジャンプが乱れなく、空中でまわる軸がぶれることなく着氷も美しいジャンプ。
ジャンプがすべて決まったあと、とんでもなく体力を使ったであろうにさらに怒濤のステップやイナバウアー。
フィニッシュのリンクをどんと踏みしめるところまで凄まじい迫力で圧倒されました。
平安を思わせるコスチュームも似合いますね。
今後ここまですべてをパーフェクトにこなす演技は二度とみられないのではと思わせる、
そしていや羽生ならこれからさらに進化してみせてくれるだろうと思わせる奇蹟の4分30秒。
羽生は「日本刀」のようですね。
さやから取り出した日本刀は音もなくただそこにあるのに、
きらりと光って、見るものを「ごくり」とさせる。
静謐さの中に狂気(日本刀の宿命)を感じさせる。
美しくもあり鬼のようでもある。
SEIMEIは神懸かっていて、まるで羽生自身が陰陽師となり、
スポーツの世界に潜む魔物(甲子園の魔物みたいにアスリートを翻弄して実力を発揮させなくする)を
打ち負かした神事のようにもみえました。
2)羽生のショート。
去年からブラッシュアップされたプログラム。
浅田真央の「ノクターン」も音と演技が見事に一致して名プロだと思うのですが、
この「バラード第一番」も作曲家のショパンを墓場からたたき起こして見せたいくらい。
ピアニストが指を走らせる超絶技巧と同じスピードと同じ強弱で体を動かせる。ステップを踏める。
信じられません。
冒頭の4回転サルコウからすぐにイーグル。何度見てもすごい。
多くの選手がジャンプの前後は飛ぶための体勢準備や、
着地後の体勢整えのために「演技」ではない素の時間帯が生じるのですが、羽生にはそれがありません。
それだけジャンプを成功させられる自信や覚悟があるのですね。
力を入れて飛び、力を集中させて着地しなければならないであろう4回転なのに、
すぐ、ふっとすべてを緩めるようなイーグルの流れ。心地よくもあり驚異的でもあります。
ピアニストがふわっと鍵盤の上に手を置いているかのような
ふわっとした動き、端正なジャンプ、そして最後は激しくなるピアノと連動して激しいステップへ。
超人的な技術が叶える音との見事な融合。こんな世界をみられるなんてしあわせ。
3)羽生のフリー後の興奮のコメント
長野を名古屋と言ってしまったり、かみかみだったり。
いつもは言葉を選び、そつなく、模範的なコメントする羽生ですら興奮している様子に、
あらためて322点の持つ凄さを実感しました。
あの若さで、自分のことを「わたし」と言うんですね。素顔が見れて興味深かったです。
そして「血のにじむような努力」(たしかすぐに「努力」は「練習」と言い換えたけれど)があったのですね。
ふだんは白鳥が水面下でもがくところをみせないように、
けっして練習のハードさを見せないので、つい本音が出てしまったことも、でもすぐ隠そうとする様子も興味深かったです。
美学を感じます。
4)宮原知子の首位発進&優勝
「想い描くことに向かって丹念に努力を続ければそこにたどり着ける」と想わせる選手。
背の低さもあってジャンプが決まった時の爽快感、
コストナーのような長い手足で醸し出す浮遊感は表現しづらいと思うのですが、
どの瞬間のポジションも切絵にしたいくらいの美しさ。
太田由希奈を彷彿とさせます。
昨年まではまじめな性格で「どや顔」なんてとんでもないという雰囲気がありました。
でも今年は蠱惑的な目線もあり、演技の世界に入っているのが感じられました。
右回り左回りができることもアクセントにもなりますし、上体を大きく使った屈むような振付etc.とても美しいです。
レイバックスピンの体勢直後に素早く胸をそらすところも。
ショートでは直前のパゴリラヤの転倒に臆せず、最終滑走でいい演技を決めるところにもメンタルの強さを感じました。
うわついたところがなく、コメントにもクレーバーさがにじみでます。
「お客さん」ではなく「観客の皆様」と口にするところとか。
あと望むとしたら、「あそび」でしょうか。難しいふりつけを見事にこなしている、から一歩すすんで。
滑るってこんなに気持ちいいと本人の体感が伝わってくるような。
お絵描きを楽しんでいるように氷上にエッジで軌跡を描き、
自分自身が楽しんでいる感が出るとさらに魅力的になるように思います。
5)羽生のEX
「天と地のレクイエム」
EXだからノリノリの曲でコミカルな面を見せようとかではなく、正統派の心を打つプログラム。
楽曲もいいですし、何年に1度あるかというくらい気に入ってしまったプログラム!!
激しさとやわらかさ。2面をあわせ持つ羽生の真骨頂。
中盤の連続スピンのあと次のステップに行く前、
タンタタンタというわずかなピアノの音に合わせて左右の肩を動かすところ
(←2015年7月のファンタジーオンアイスの時はまだなかったでした)好きです。
このように音のリズムと振付を連動させているだけではなく、
音の強弱や曲調(激しい、せつない)までもシンクロしているのが見事。
細やかに練り上げた振付を創るブレーン。
それを演じられる羽生の才能。この2つが合わさったことで生まれる芸術ですね。
6)金博洋のショート
脅威の存在ですね。今回、羽生の心に火をつけて、鬼構成をこなして史上最高点を出させた立役者。
特にショートが素晴らしかったです。キレがあってしなやかにすべての動きがぴたっと決まる。
そしてスピンの入りかけほか、私が「このくらいの速さだよね」と想像するよりも速く回転している。
すぐにトップスピードになるといいますか。
4回転をルッツで決めるだけではなく、表現力、安定性を磨いたらもっと点は出るでしょうし、のびしろいっぱい。
7)浅田真央のショートのステップ
浅田真央は後日あらためて。
8)長洲未来のショート
素晴らしかった!軽やかな着地のジャンプが美しく、スピード感溢れ、もっと点が出てもよかったのでは。
体型はけっして華奢とはいえないのですが、ティンカーベルかしらと思える軽やかさ。
どんな瞬間もやわらかく美しく表情のある腕から甲、指先までも印象的でした。
9)パゴリラヤを後押しする観客の手拍子とフリーでのがんばり
体を打ち付けた2度の転倒のあと、イージー場面での転倒は心が折れることだったでしょう。
立ち上がって続けるパゴリラヤに対する観客の拍手にじ~んときました。
キスアンドクライは、クライオンリー。
フリーもコンディションが心配でしたが、頑張って滑りきってほっとしました。
10)ペア2位の中国、于小雨・金楊の EX
女性の于小雨、細い首、うなじ。演技前からしっとりとした情感に溢れていました。
番外編 織田信成と鈴木明子
羽生の快挙を素直に喜び、いかにすごいことかを語る姿は安心できます。
表彰式を終えた3人が二人のブースまでやってきて、
ブーケを渡すところにも、ともに闘った選手同士のきずなが感じられました。
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