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2016年8月 1日 (月)

広重「永代橋 佃しま」の描かれた日を推測する(その5)実際の景色ではないのかも

広重の「名所江戸百景」の「永代橋 佃しま」。

(その1)~(その4)では、
広重が見たままを忠実に浮世絵にしたという前提で月の形などから描かれた日を特定しました。
まわりに描かれた星が、有名なあの星座ではという発見もありました。

さて(その5)では。
実は実際の景色ではないのかもということをご紹介します。


◆写真をなして筆意を加える

広重による絵のお手本BOOK『絵本手引草』の序文に
画は物のかたちを本とす。
なれば写真をなして、是に筆意を加ふる時はすなわち画なり

という言葉があります。
つまり、見たまま写生するだけではなく、
そこに筆意を加えることが創作だと考えていたことがわかります。
(cf『歌川広重 生涯と作品』内藤正人著 東京美術 2007 p38)


絵本手引草
Hiroshige_rinenjpg


画像はクリックで拡大します。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/850050

 


絵本手引草


 

『歌川広重 生涯と作品』内藤正人著(p36~37)に紹介されている例がとても興味深いです。


内藤氏は金沢八景を描いたスケッチ「能見堂筆捨枩より八景一覧」
(『武相名所旅日記』1853(嘉永6年)収録)に筆意を加えて
1「金沢八景」(1853年(嘉永6年))
2「従能見堂金沢八景一覧」(『武相名所手鑑』(1853年(嘉永6年))
3「武陽金沢八勝夜景」(1857年(安政4年))の3作品が描かれたのではと指摘しています。

興味深いのは3の「武陽金沢八勝夜景」です。
昼間見た風景を夜の風景に変えて、丸い月を加えているからです。
Buyokanazawa

武陽金沢八勝夜景 大英博物館所蔵
画像はクリックで拡大します。

大英博物館での作品タイトル
「Buyo Kanazawa hassho yakei/A night view of the eight great places of Kanazawa, Buyo)」

実際に見た風景に月をくわえる、ということがあるとすると。
「永代橋 佃しま」も広重が別の日、別の時間帯に見た風景に別の日の月を加えたということもあり得てしまう
と私(emi)は考えます。


◆他の人の描いた構図からインスパイア

広重は『江戸名所図会』など他の人の絵の構図を利用して
(今風に言えば、インスパイアされて)作品を作り上げたことが知られています。
『歌川広重 生涯と作品』p62~63で内藤氏が挙げている2例をご紹介します。
(画像はクリックで拡大します)

『江戸名所図会』の「道灌山聴虫」国立国会デジタルコレクションより
Edomeisho_doukanyama_2

↓広重がアレンジ

「東都名所 道灌山虫聞之図」国立国会デジタルコレクションより
Hiroshigedoukanyama


『山水奇観』の「薩摩坊津 其二」国立国会デジタルコレクションより
Sansuikikan_satsuma

↓広重がアレンジ

『六十余州名所図会』の「薩摩 坊ノ浦 双剣石」
Hiroshige_satsumajpg

内藤氏は
手本とした元絵の画中を別の視角から新たに描き起こしたり、
あるいは夜のしじまや月影、雨や雪といった時間・気象における変化の妙を加えたり

と記しています。

◆「永代橋 佃しま」は夜明けの絵?

『浮世絵「名所江戸百景」復刻物語』(東京伝統木版画工芸協会編 小林忠監修 芸艸堂 2009)のp53に
浮世絵版画では、初摺と後摺でかなり変化のあるものがたくさんあります
とあるように
「永代橋 佃しま」もいくつかのバリエーションがあります。

このブログでご紹介している
国立国会図書館デジタルコレクションのものは
水平線上→暗闇
水面→月が映っておらず

ですが、
江戸東京博物館所蔵のものは
水平線上→赤いぼかしあり
水面→月が映っている

となっています。
浮世絵の赤いぼかしは朝焼けや夕焼けなどを表現 するそうです。

静岡市東海道広重美術館の企画展「浮世絵のあか」のpdf。
直接のURLはtokaido-hiroshige.jp/press/.../The_Red_of_Ukiyo-e_JP_press_0113.pdf


『浮世絵「名所江戸百景」復刻物語』によると、江戸東京博物館所蔵のものが初摺のようです。
そして「絵師の意図が妥協なく表現されているのはやはり初摺」(p53)なのだとか。

となると、水平線に赤いぼかしがある方が広重の意図なのかなと思うのですが、これが意味するのは何か。
夕焼けや朝焼けの時間帯に南の空にこの形の月が出ることはありえないのです。


そこで私は3つ推測。
1)金沢八景の作品のように、広重はアレンジをした。
 夕焼け、朝焼けが見える風景を写生、そこに別の時間帯の月を加えた。
2)夜に写生を行った。月の位置も形も星空も忠実に描いた。
 空の遠さ、奥行きを演出するために水平線上に赤いぼかしを加えた。
3)夜に写生を行った。月の位置も形も星空も忠実に描いた。
 明け方までおこなわれる白魚漁の時間経過を現わしたくて、朝焼けの意味で赤いぼかしを加えた。

------
(2)か(3)かなと思っています。

私メモ/
「道灌山聴虫」…『江戸名所図会』七巻 斎藤月岑ほか著
国立国会図書館デジタルコレクションでの直接のURLは
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2563393/52

「道灌山虫聞之図」…『東都名所』広重
国立国会図書館デジタルコレクションでの直接のURLは
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1303513/1

「薩摩坊津 其二」・・・『山水奇観』前編四巻 旭江淵上[著]
国立国会図書館デジタルコレクションでの直接のURLは
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9367521/27

「薩摩 坊ノ浦 双剣石」…『六十余州名所図会』広重
国立国会図書館デジタルコレクションでの直接のURLは
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1308369/1

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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