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2018年6月10日 (日)

桜とテイカカズラ(その1)2018年5月に気になった花、テイカカズラの情念

今年の5月に気になったもう一つの植物がテイカカズラです。

【発端は落ちている白い花】

発端は、よく通る道に白い花がぽとぽと落ちはじめたこと。

「シダレザクラとソメイヨシノはあるけれど、白い花をつける木があったかしら」
と見上げた時、
(以下、画像はクリックで拡大します)

桜の幹に緑の葉がウジャウジャと巻きついているのに気づきました!
Teika120180515_3short
虫の死骸にむらがる蟻のよう。

そして、白い花がびっしり!
Teika5_20180521_6

花のアップ。
Teika6_20180511short

【プロペラ型の形で名前が判明】

Teika7_20180514_1

花びらに傾きがあります。プロペラかスクリューのように。

この形を手がかりに調べて、名前が「テイカカズラ」であることがわかったのでした。

形がジャスミンに似ています。香りも鼻に抜けるような甘さがジャスミン系。

アスファルトに落ちた花たち。
Teika8_20180514_3

惜しい!   「*」のような六弁の花だったら
雪の結晶を道路にちりばめたみたいになるのに~。

【繁殖力にびっくり】

さて、テイカカズラの繁殖ぶりをご紹介しましょう。

黄色く囲んだところのモコモコがテイカカズラ。本来の木の葉ではありません。
Teika2_20180515_1shorten

過去はどうなっていたかしらと写真を調べると。

↓こちらは2年前の2016年4月の様子。
テイカカズラの葉に覆われている様子はありません。
Teika15_20160406_2short

ガラケーで不鮮明なのですが2013年の3月の様子↓
Teika3_shidare0130322

それが今では
Teika4_shidareteika20180521_6

次は建物の二階からのアングルを。
(大きなサイズでアップします。
はみ出ますので、リンクを新しいタブで開く、でご覧いただけましたら)

2018年5月。
Teika9_shidareteika20180516_3_2

まるで緑のじゅうたん。
『天空の城ラピュタ』でロボット兵たちを緑が覆っている場面を思い出しました。

黄色い矢印付近にかろうじて、本来の木の葉(少し大きく細長い葉)がありますが、
完全にテイカカズラに飲みこまれています。
Teika10_20180516_2

以前はどうだったのだろうとまたガラケー時代の画像を探してみました。
↓2014年の春の写真です。
シダレザクラ(写真左半分)とソメイヨシノ(写真右半分)。
花がこれだけ見えるということは、テイカカズラの浸食がなかったということでしょう。
20140404sakura56

【いつから繁殖?】

去年、「桜の木にツタが巻きついている」と思った記憶があります。
あの時、ツタと思ったのがテイカカズラだったのでしょう。
2017年には巻きつきが始まっていたのでしょう。

ただ、去年の春、白い花がアスファルトに落ちている、と気づいた記憶がありません。
となると、この1年弱で急に繁殖したということでしょうか。

【花のディテール】

さて、テイカカズラの花ですが反対側を。
Teika13_20180518_2
中央の梅の花をかたどったみたいなくぼみが愛らしいです。

ドクダミと比べてみました。
画像ではわかりづらいかと思いますが、ドクダミの白さに対し、
テイカカズラはわずかにクリーム色がかっています。
Teika14_20180523_1short

【テイカカズラのいわれ】

テイカカズラは「定家葛」。
式子(しきし/しょくし)内親王(1149-1201)を恋慕っていた藤原定家(1162-1241)が、
親王が亡くなったあとも忘れられず、
死後、蔦葛となって親王の墓石に絡みついたとされる能の「定家」に由来します。 

『能楽名作選 原文 現代語訳 下 』天野文雄 [訳]/2017 
KADOKAWA)の
「定家」p29~41を元に
抜粋&要約でご紹介します。(引用部分 原文:青文字 現代語訳:茶文字)

初冬の夕暮れ。北国から京の都を訪ねた僧が時雨に遇い、雨宿りをします。
そこに女が現れ、僧を式子内親王のお墓へと誘います。
そのお墓は
長い年月が経っているうえに、蔦葛がまとわりついて、その形もわからない
(星霜古りたるに蔦葛這ひまとひ、形も見えず候)

というありさまでした。

女は僧に
これは式子内親王の御墓でございます。また、この葛は定家葛と申します。
(これは式子内親王の御墓にて候、またこの葛をば定家葛と申し候)
」と言って、
なぜ、内親王の墓に定家葛がまとわりつくようになったのかいきさつを語りはじめます。


女の話によると、

式子内親王はかつて藤原定家と忍ぶ恋をしていた。(※1)
玉の緒よ 絶えなば絶え ながらへば 忍ぶることの弱るなる (※2)
いっそこの命がなくなってしまえばよい。
生きていたなら、この恋心を耐え忍ぶ力が弱って、人に知られてしまうだろうから
)」
と、つらい思いを味わっていた。

この恋は人に知られ、定家が内親王の元へ通うことができなくなり、
二人とも苦しんだ。

内親王が亡くなったあとも、定家の内親王への想いは消えることがなかったため、
定家卿の執心が蔦葛となって、内親王の御墓にまとわり
定家の執心葛となつて、御墓に這ひまとひ)つくようになった

ということでした。


能「定家」では墓にまとわりつくテイカカズラの様子はこうも表現されています。
そうしたお気持ちが執心となって、その身がこのように定家葛となって、
この内親王の御墓にいつしかからからみついて離れず、
濃い蔦紅葉のように焦がれてまとわりついたそのさまは、
さながら荊棘(おどろ)のごとく乱れた髪のようです。」

(思へばかかる執心の、定家葛と身はなりて、このおん跡にいつとなく、
離れもやらで蔦紅葉の色焦がれまとはり、荊棘の髪も結ぼほれ)
 
(以下、私による略)。

 この話の季節は初冬です。
焦がれているように真っ赤に色づいたテイカカズラの葉。
乱れた髪のようにからみもつれあっているツル。
迫力を感じる描写です。

ストーリーに戻りましょう。
このあと、僧に素性を問われ、女は自分が式子内親王であることを明かします。
そして、テイカカズラから解放されたいと懇願します。
「わたくしのほんとうの姿は影のようにしか見えないはず。
墓石の形さえ蔦葛に覆われてはっきりと見えません。
どうかこの苦しみをお助けください

(まことの姿はかげろふの、石に残す形だに、それとも見えず蔦葛、苦しみを助けたまへ)」
と。

僧が「薬草喩品(やくそうゆほん)」による回向で弔います。
内親王はやっと葛の呪縛から解放されました。


内親王はお礼をいいます。
「御法の雨の滴りを受けて、みなその恵みに浴して、草木をはじめあらゆるものが成仏の機を得るのです。
その結果、定家葛もほろほろと解けて、わたくしの体も楽になって、
よろよろと頼りない足どりながら、この苦しみを脱することができたのは、ありがたいことです。

(御法の雨の滴り、みな潤ひて草木国土、悉皆成仏の機を得ぬれば、
定家葛もかかる涙も、ほろほろと解け広ごれば、
よろよろと足弱車の、火宅を出てたるありがたさよ)
と。

内親王は僧に感謝の舞を踊ります。
ただ美しい姿でいられるのは夜の夢の間だけ。
夜が明ける前に、内親王は墓に戻りました。
テイカカズラの呪縛が解けた墓に。

これでハッピーエンド。

かと思いきや・・・。

内親王が墓に戻ると、なんと!
ふたたびテイカカズラが墓を覆ってしまうのです。
もとのように定家葛にまとわれて、その姿ははかなくも蔦葛の蔭に埋もれて見えなくなってしまった
(もとのごとく、這ひまとはるるや、定家葛、這ひまとはるるや、定家葛の、はかなくも、形は埋もれて、失せにけり

怖いですね~。
定家葛がほどけたのはイットキだけのもの。
朝になり、内親王が墓に戻った途端、ズズズと現れ、うごめき墓を覆い尽くすテイカカズラ。

その場面を想像してゾッとしました。
結局、定家も内親王に執着する思いから解放されず、
内親王も定家の呪縛から解放されず、二人は永遠に苦しみ続けるという「オチ」なのですね。

解決したと思ったエンディングにもう一つ恐怖が仕掛けられている映画「キャリー」を思い出しました

そして、設定は違うのですが、
生身の人間ではない女性が、夜中に踊り、朝の光が射す前に消えるというシチュエーションがバレエの「ジゼル」とも重なりました。

能「定家」のご紹介は以上です。
※1 二人の恋は実際にはなかったと『能楽名作選 原文 現代語訳 下』p29に書かれています。
本曲に描かれているような式子内親王と定家の恋は二人の年齢差から事実ではありえないが、
このような逸話は本曲以前に生まれていた。
その恋を「邪淫」として、それゆえ、ともに永遠に苦しみを受け続けるという作品に仕立てたのだが、
その作者は金春禅竹と思われる。

※2 式子内親王の読んだ歌「玉の緒よ絶えなば絶えねながらえば 忍ぶることの弱りもぞする」は
百人一首にも編纂されています。
------------------------

【情念を感じさせる絡まり方】
というわけで、情念そのもののテイカカズラ。
もう一度、巻きついている様子をご覧ください。

桜の木をぐるぐる巻き。
Teika_img_5799

桜の木が式子内親王に見えてきます。

これでもかと、ぐるるるる。
Teika_img_5806

↓大きなサイズでアップしました。(リンクを新しいタブで開く、でご覧いただけましたら)

赤がおそらくシダレザクラの葉、黄色がわずかに残るテイカカズラの花。
ピンクがテイカカズラの葉。
Teika_img_5802

秋、冬はどうなるのか。
今後も観察を続けます。

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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