翻訳できない世界のことば。美しいイラストと、素敵な感覚が言葉になったよろこびにあふれた絵本
「翻訳できない世界のことば」。
素敵な絵本ですが、あらためて読み返してみました。
翻訳できない世界のことば
特に私が気に入った言葉を備忘録として挙げてみます。
グレーは右のページの言葉。
ブラウンは左のページの解説。
コーラルピンクは私の印象。
mångata (マンガータ)スウェーデン語(p10~11)
水面にうつった道のように見える月明かり。
人々は、こんなにも美しく詩的な風景に、
いままではほとんど目を向けなくなっています。
それでも、漆黒の夜の海にうつった月明かりがまっすぐ
渡っているシーンには、きっと目をうばわれるでしょう。
月の絵。グレーの水面を照らす月の道の絵。
静謐な空気が伝わってきてうっとりする見開きページです。
KILING(キリグ)タガログ語(p20~21)
おなかの中に蝶が舞っている気分。
たいてい、ロマンチックなことや、すてきなことが起きたときに感じる。
きっとあなたもご存じでしょう。
ひとたびこの気分になると、まともにものが考えられず、
どんなことにもほほえんでしまうし、胃の奥のほうからわくわく感がこみあげてきます。
パタパタはばたく蝶のイラストが華やか。胃と腸の絵の組み合わせが素敵です。
ロマンチックなことではないけれど、私はジュバンセルの「望の月」を食べる時、
お腹や胃でパタパタと何かが舞い上がっていくのを感じます。
KOMOREBI(こもれび)日本語(p32~33)
木の葉のすきまから射す日の光。木洩れ日。
まばゆくて目を閉じてしまうほどに美しいもの。
緑の葉のあいだをすりぬけた光は、魔法のように心をゆさぶるでしょう。
グリーングラデーションのイラストが美しいです。
小さな黄色い六角形がたくさんちりばめられていて、それが木漏れ日なのでしょう。
木漏れ日という言葉をチョイスする作者のセンスが素晴らしいです。
BOKETTO(ボケッと)日本語
なにも特別なことを考えず、ぼんやりと遠くを見ているときの気持ち。
日本人がなにも考えないということに名前をつけるほど、
それを大切にしているのはすてきだと思います。
いつもドタバタ忙しいくらしのなかで、
あてもなく心さまよわせるひとときは、最高の気分転換です。
ボケッとという言葉が選ばれることにびっくり。
でも自由に心を遊ばせられるひとときは生活の中の醍醐味ですね。
UBUNTU (ウブントゥ)ズールー語(p48~49)
本来は、「あなたの中に私は私の価値を見出し、
私の中にあなたはあなたの価値を見出す」という意味で、「人のやさしさ」を表す。
南アフリカのこの重要な哲学は、いろいろに解釈されていますが、
ubuntuを知っている人なら、
わたしたち人間は目に見えない形でかならずつながっていることを認めるでしょう。
リベリアの平和活動家の言葉をかりると、「私たちみんながそうである者として、私もある」
哲学的な言葉。
TIAM(ティヤム)ペルシア語
はじめてその人に出会ったときの、自分の目の輝き。
たぶんそのだれかは、あなたにとっては特別な存在。
あなたの目のなかに銀色の輝きが宿ったら、
その人に会えたことはハッピーな出来事です。
なんて素敵な言葉なんでしょう。
瞳のまわりにたくさんの星が描かれたイラストも素敵。
WABI-SABI(ワビサビ)日本語
生と死の自然のサイクルを受けいれ、不完全さの中にある美を見出すこと。
仏教の教えがルーツにある日本のこの考え方は、
不完全で未完成であるものに美を見いだす感性です。
うつろいと非対称性をくらしのなかに受け入れるとき、
わたしたちはつつましく、満たされた存在になりえます。
侘び寂びの解釈が難しいなあと思いますが、
日本の美学であるこの言葉をとりあげてくれてうれしいです。
MAMIHLAPINATAPAI(マミラピナタパイ)ヤガン語(p58~59)
同じことを望んだり考えたりしている2人の間で、
何も言わずにお互い了解していること。
(2人とも、言葉にしたいと思っていない)
書きつづけるのもむずかしい語ですが、
それが、言葉の複雑な意味をいいぐあいに視覚化しています。
こんな複雑で大切な感覚に名前がついているのがすごいです。
IKTSUARPOK(イクトゥアルポルク)イヌイット語(p64~65)
だれか来ているのではないかと期待して、何度も何度も外に出て見てみること。
期待と待ちきれない気持ちで、家の中と外を往復してしまいます。
だれかが丘の向こうで、その曲がり角から姿を現さないかしら。
そうやっていると、時間が早くすぎるでしょうか。たぶん。
氷でできた丸いドームとアイスブルーを基調にした見開きの絵が美しいです。
FORELSKET(フォレルスケット)ノルウェー語(p86~87)
語れないほど幸福な恋におちている。
あなたはまだ経験したことがない?
それとも、もう何度も味わった?
どちらにしても、すてきなことです。
そして、forelsketは、なんでも思ったことを率直に伝えることから、
一番起こりやすくなります。
小さなハートがいっぱい集まってハート型になっているイラストが可愛いです。
TSUNDOKU(ツンドク)日本語
(p90~91)
積ん読。買ってきた本をほかのまだ読んでいない本といっしょに、読まずに積んでおくこと。
積読のスケールは、1冊だけのこともあれば、大量の読まない蔵書になっていることもあります。
玄関を出るまでに、ページを開いたことのない『大いなる遺産』の本に、
いつもつまづいてしまう。知的に見えるあなた。
その本、日の目を見る価値があると思いますよ。
まさかのツンドク、ノミネート。
WALDEINSAMKEIT(ヴァルトアインザームカイト )ドイツ語(p104~105)
森の中で一人、自然と交流するときのゆったりとした孤独感。
市街地の公園には森とよべるようなものはなく、
わたしたちはこんな気持ちをなかなか味わえなくなっています。
ふだん、自然以外のほとんどのものと交流していますが、自然に触れると、
枝のすきまからそんな現実が去っていくような気がします。
魂が、きっと木々のめぐみに感謝したくなるでしょう。
WALDEが森。INSAMKEITが孤独なのですね。
森を一人で歩く時の静けさ、一人だけど自然とつながっているような感覚。
こんな素敵な感覚に名前がついているなんて。
NAZ(ナーズ)ウルドゥー語
だれかに無条件に愛されることによって生まれてくる、自信と心の安定。
世界の果てまでも一緒についてきてくれる人がいると、
足取りにも弾みがつき、笑顔がうまれます。
ナーズのページもハートがひゅるーんと渦巻きになっていて
ポストカードがあったら欲しいと思う可愛らしさ。
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日本語が4つも紹介されていることに驚きました。
木漏れ日、侘び寂び。あらためていい言葉ですね。
ボケッと、と積ん読を選ぶ感性も新鮮です。
私だったらあと何を選ぶかしら。
ゆかし、すずろ、御大切、忘れ潮。
まだまだ日本人のこまやかな感性が現れた言葉がいっぱい。
このブログでこれからもちょこちょこっと取り上げてみようと思います。
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